友だち幻想

菅野仁『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』ちくまプリマー新書、2013


著者は社会学者。去年亡くなったというのは、これを読んでから知った。1960年生まれということなので、短い人生だが、人間、死ぬ時はそういうものなのでしかたがない。

で、この本だが、タイトル通りの本。誰とでも友だちになれるとか、友だちはたくさんいるほどいいとか、そういうふうに考えるのが間違いだというご意見。まったくそのとおり。

著者は、宮城教育大の先生だったので、学生は教員志望の人たち。この本も、ちくまプリマー新書だからそうなのだが、非常に教育的な本。読んでいて、著者が学生に対して非常にまじめで、親切に接していることがうかがわれる。

昔は、そんなに問題にならなかったはずの人間関係が、どうして今、こんなにできないことになっているのか。著者に言わせれば、昔は人間関係にすべてが依存していて、それがなければ生きていくことができなかった。しかし、豊かな社会になってから人間関係がなくても、物質的にはなんとかなるようになってきた。だから、人間関係にどうしても食いつかなければならない理由が薄くなってきた。ということで、人間関係を放棄しているのが今の社会。しかし、やっぱりそれではどうにもならないということ。

著者の処方箋はそんなに複雑なものではなく、共同性の幻想を適当に捨て、人間関係は「ルール関係」と「フィーリング共有関係」に分けて、必要最低限のルールをお互いに守ることで、なんとか社会は維持していく。それ以外は別にどうにかしましょうというもの。

よくないのは、「ムカつく」「ウザい」「ていうか」「チョ~」「カワイイ」「ヤバい」「キャラがかぶる」「KY」の「使いすぎ」。言葉に感覚は沿っていくものなので、適当な言葉を使っていると、そっちに自分が引きずられていくというおはなし。まあ、そのとおりではある。

こういうことを言っていて、それでいて、学生にきちんと接していたのだから、著者はえらい人。人間、寿命というものがあるから、しかたがないが。