現代の英雄

ミハイル・レールモントフ中村融訳)『現代の英雄』岩波文庫、1981


レールモントフの小説。まあ、これはおもしろすぎる。

「余計者」ペチョーリンの人生のおはなし。ペチョーリン、モテモテだし、とにかく若くて美しい。しかし、情熱はないし、何に対しても打ち込めるものがない。ということで、ペチョーリンは、恋に、ロシアン・ルーレットに、何にでも、身を捨てて行くことができるのだ。自分の身など惜しくないので、平気です。

表題の「現代の英雄」。訳者は、悲劇的な犠牲者ととっていて、そういう考えもありだと思うが、むしろ、「現代に英雄っていうものがあるとすれば、それはこういうものでしょ」という著者の乾いた笑いの産物ともとれる。まあ、その笑いは、著者自身にも向けられているのだが。

現代日本なんか、英雄だらけだ。とはいえ、現代日本の英雄はペチョーリンほど頭も良くないし、美しくもないし、尖ってもいない。その辺がペチョーリンより一層英雄っぽいともいえる。抑圧なんかされなくても、人間いくらでもつまらなくなれるのだ。