ナボコフのロシア文学講義 上

ウラジーミル・ナボコフ小笠原豊樹訳)『ナボコフロシア文学講義』上、河出書房新社、2013


これは傑作。もとは、TBSブリタニカから、1982年に出ていて、それが新装版として92年に再版され、その後、河出書房新社から2013年に出た。巻末に若島正が解説を書いている。

取り上げられているのは、ゴーゴリ(死せる魂、外套)、ツルゲーネフ(父と子)、ドストエフスキー罪と罰、ねずみ穴から出た回想記、白痴、悪霊、カラマーゾフの兄弟)。

特にゴーゴリのところがよかった。というか、外套、読んでないんですが、ここまで突っ込むのかというくらい突っ込んでいる。小説はあらすじじゃなくて、細部がだいじ。それを非常に大切にしているのがナボコフ

ツルゲーネフもある意味、けなし褒めだ。しかし、ツルゲーネフへの愛はよくわかる。偏愛だ。

ドストエフスキーは、もうやりたい放題で、「こんなことやるのか」というような勢いで、いろんなことを言っている。若島正が解説で書いているが、ドストエフスキーのファンは、これを読んで怒る人もいるだろう。しかし、文学の講義など、それでよし。好きなら好き、そうでないければ、そうでないところを探して、なにかきちんと言えばよい。なんでも褒めればいいというものでもないだろう。

それにしてもナボコフ、この精密さはただものではない。やはりロシア文学の伝統に連なる人は、ちがう。下巻もたのしみ。