みんなの道徳解体新書

パオロ・マッツァリーノ『みんなの道徳解体新書』ちくまプリマー新書、2017


パオロ・マッツァリーノの、「道徳教育への皮肉」本。これはけっこうおもしろい。

だいたいは、最近の、「近頃は道徳が失われたので、学校で教育しろ」というようなご意見に対する皮肉。昔の道徳副読本とかへのツッコミ。これが非常におもしろく、こんなものがよく使われてるなーと笑いをこらえきれないようなものが多数。だいたい、小学校教員なんて、道徳は教えても退屈だろうとおもっているし、点数もあんまり差をつけられないので、つまらないとおもっているのだ。

その結果、道徳の副読本は、意味不明なネタがボロボロでてきて、よくわからない状態になっている。「ピアノの音でマンションの住人が裁判沙汰になりかけたのを、理事長が仲裁して丸く収め、仲良し同士なら音も気にならないだろうと、クリスマス会やバス旅行を企画した」って、前半はともかく、後半は変じゃないのかという話。だいたいマンションに住んでいるのは、隣近所の付き合いがめんどくさいような人なのだ。クリスマス会って、小学生じゃあるまいし、アホらしい。

バカっぽい話ばっかりではなく、ちゃんといい話も載っているので、それも紹介されている。この辺はちゃんと公正にやっている。

しかし、この本の白眉は、結論部分。「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに対する大人の答えを問題にしているところ。

著者の考えは、「そもそも人を殺してはいけないという問い自体が成立していないので、その問い自体に意味がない」というもの。現実に、死刑は日本では支持されているし、自衛戦争はありなのだから、「人が死ぬことも理由によってはあり」だということ。「人を殺すこと一般がよくない」などという問いには意味はない。だいたい、自動車事故で人が死ぬことを知っていて、自動車を作っているのはどうなのかとも言っている。これはさすがに無理な気がするが、「人命が地球より重い」という戯言への批判にはなっている。

まあ、道徳の授業なんて、こういうレベル。道徳をまともに考えられるのは頭がいい人だけ。そりゃそうだ。