あのころ、早稲田で

中野翠『あのころ、早稲田で』文藝春秋、2017


中野翠の「学生運動時代の手記」。知っていたことは知っていたが、中野翠は、1946年生まれ、1965年に早稲田大学第一政経学部経済学科に入学しているので、ガチで学生運動をやっていた人。それも、「社研」(社会科学研究会)なので、本物だ。

浦和一女卒(名前は出していないが、「キューポラのある街」のエピソードがあるのでわかる)で、左翼になりたくて早稲田の政経に行った(経済を学ばないと左翼になれないと思っていた)というので、当時の流行りはそういうものかとおどろいた。これは世代の違う自分には、まったくわからない世界。

いろいろなエピソードが出てくるが、印象的なのは呉智英との出会い。当時は本名の新崎智だが、太っていたとのこと。やせた呉先生しか見たことないので、これは新鮮。呉先生は、学生の時から突き抜けていたとのこと。それはそうだ。

あとは、社青同解放派だとか、革マルだとか、今では狂人と化したセクトの人たちによる、切った張ったの世界。中野翠は、ノンセクトだが、左翼であることには変わりないので、もちろんその渦中にいた。最後に物を言うのは、包容力と人情。この辺もヤクザっぽい。

それにしても、中野翠が、全共闘運動を親世代への反抗で片付けているので、唖然とした。そんなことのために、どれだけの人が大変な思いをしたり、就職できなくなったりしたかという話。学生運動などやっていた奴が就職できないのはいいが、教員や警察もたいへんだったのだ。

あと、この本には、中野翠の男性関係がほとんど出てこない。最初の方で、淡いエピソードが少し出てくるだけ。ご本人の学生時代のお写真が出て来るが、かなりキレイ。男性関係については、さすがに書きたくなかったということだろう。しかたないけど。