100分de名著 陳寿 三国志

渡邉義浩『100分de名著 陳寿 三国志NHK出版、2017


NHK「100分de名著」のテキスト。テレビで薄い話(伊集院光トークは別として)を聞いているより、こっちの方がよい。

テレビの放送回4回に従って、「群雄と名士」の関係で、人物を描いている。初回は、「董卓袁術袁紹」、第2回が「曹操」、第3回が「孫権」、第4回が「劉備諸葛亮」。

史書からエピソードを抜いているので、三国志演義とは違った視点が強調されているのがいいところ。「曹操」の章では、曹操の勝因として3点をあげていて、それが青州兵、献帝の保護、屯田曹操屯田は、民屯だったから、辺境防衛ではなく、自領の生産力をあげるためのもの。青州兵の繰入も、軍の増強だけでなく、後の兵戸制につながる制度。混乱の中で、制度的に自国の富強を図っていたことは、他の群雄には真似の出来なかったところ。これも曹操が、名士をきちんと使いこなせていたことの証拠。

孫権劉備諸葛亮の章もおもしろかったが、特に劉備諸葛亮の緊張関係に焦点があてられているところがよかった。劉備は歴戦の傭兵隊長諸葛亮は名士。劉備の性格と諸葛亮の性格は必ずしもすべて合っていたわけではなく、だから、劉備は法正のような荊州系ではない人物も重用していた。法正没後に、尚書令のポストに推されたのが劉巴荊州系で、劉備の招きになかなか応じなかった)だったことも、劉備諸葛亮の間に溝があったことを示す。劉備が最期にのぞんで、諸葛亮に「君が国を取れ」といったこともそう。

出師表に、三顧の礼のエピソードが出ているから、このエピソードは史実という話にも納得。表は公表前提の文書だから、事実でないことは書けないはず。劉備が没した時点では、このエピソードを知っていた人は多く生き残っていたのだから、そこでいい加減なことは言えない。

人物注はちゃんとついているが、参考文献リストがないのが惜しいところ。