戦争にチャンスを与えよ

エドワード・ルトワック(奥山真司訳)『戦争にチャンスを与えよ』文春新書、2017


エドワード・ルトワックの新著。しかし書き下ろしというよりは、訳者の奥山真司との対談を原稿にしたものが多い。内容は非常に面白い。

不穏なタイトルだが、内容も不穏な本。「平和研究」なんかとは真っ向から対立する本。簡単に言えば、倫理的な観点はいったん捨ててから物事を考えろということ。戦争を起こすのは人間の心理。人間の心理は、単独で決まるものではなく、相手がいて、相手の行動によって決まるもの。

特にそこで大事なことは人間の感情。戦争の最大の役割は、戦争が実際に起こることによって、当事者の感情を疲弊させて、戦争をあきらめさせること。逆にこれがないと、当事者の戦争へのやる気はズルズルと残り、それが実際に戦争になっていく。パレスチナ人道支援や難民キャンプは、彼らの戦争へのやる気を温存しただけ。

戦争は永続的にはできず、平和も永続的ではない。このことを前提として、どのように戦争と平和の相互関係を組み立てていくかが、人間にできること。

逆説的論理も、ルトワックの特徴。敵の行動を前提として、こちらの行動を組み立てろという話。初歩の初歩だが、これができていない場合が多い。それも、いちばん重要なのは、大戦略と同盟関係。ここがきちんとできていれば勝てるし、出来ていなければ負け。大戦前のドイツ、現在の中国、みな同じ。強い軍隊を持てばそれで何でもできると思っているが、それは間違い。

短いが、深い洞察にみちた本。