ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち

ジョン・ロンソン(夏目大訳)『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』光文社新書、2017


これはおもしろい本。著者はロンドン在住のコラムニスト。本の執筆や、テレビ番組の制作もしている。この本は、著者の調査と体当たり取材の報告書。

いまどき、ネット炎上は掃いて捨てるほどあり、炎上した人はたいてい破滅。大したことがないようなことでも、晒されると集中砲火が降ってきて終わり。これがおそろしいのは、法に基づいて裁判をする場合には、「この程度の罪には、この程度の罰」ということが決まっているが、ネットリンチには罪と罰の均衡という考え方はない。ネットを見ている人が怒れば、それで重刑。

ネットには異常性格者だの、他人をやたらと晒す人だの、言わなくてもいいことを言ってしまう人だの、変なものだらけ。みんな、地雷原を適当にあるているのと同じ。何かの拍子に地雷を踏んでしまい、運が良くても脚がなくなり、運が悪ければ死亡。

日本と違い、アメリカやイギリスは不祥事はかんたんに解雇理由にされる。炎上した人は速攻でクビ。ただのバイトではない、まともな仕事についている人であっても、炎上を引き起こせば容赦ない。

恐ろしいのは、ネット炎上の理由は、たいてい「正義感」から来ていること。正義感がリンチを生み出しているので、みんな自分が正義を実現していると思っている。リンチに会った人の職がなくなっても、それは本人の自業自得だと思われているので、誰も気にしていない。

炎上した原因を引き起こした人がリンチされた後で、正義の鉄槌を下したと思っていた人が逆に晒されてリンチされてしまうこともよくあること。理不尽だけど、関係ない。悪と見なされれば、誰だって誅伐されてしまうのだ。

正義の安売りはおそろしい。誰でも、自分を晒しているこの社会、すべてのことが起こりうる。