木嶋佳苗被告の手記 1万2千字書き直しなし

木嶋佳苗被告の手記 1万2千字書き直しなし」、朝日新聞、2012.4.13


この記事は、木嶋佳苗が第1審の判決直前に、朝日新聞あてに送った手紙をそのまま掲載している。初出時にはこの記事は読んでいなかった。しかし、木嶋佳苗の死刑が確定したので、朝日新聞の電子版がアーカイブとして、昔の記事を再掲した。

この記事=手紙は、朝日新聞藤田絢子記者個人にあてて書かれた。藤田記者の大スクープ。木嶋佳苗との個人的な信頼関係でもらってきたもの。新聞のスクープ記事はこうでなければ。

で、問題の手紙の内容だが、驚くべきもの。1万2千字という手紙の写真がついているが、便箋に青いペンで書かれていて、非常に達筆。書き直しはまったくなく、この文字をそのまま書けるということがまずすごい。

手紙の内容は、木嶋佳苗の警察の取り調べ、裁判中の生活についての記録と自分の意見、自分の生い立ち、自己形成の過程、その間にあった人間関係、そして現在の生活状況とこれからの生に対する決意。

内容の要約ができるような生易しいものではない。この文章は、物事を非常に深く考えている人にしか書けないもの。自己分析や周囲と自分の関係の分析がきちんとできている。文章の内容に力があるばかりでなく、文体もすばらしい。

裁判中に書かれた手紙で、本人は無罪を主張しているので、事件に直接触れている部分はない。しかし自分の「悪」について、次のように触れているので、自分の行為については正確に認識している。

「私は、他人の気持ちを忖度できない人間だったということに、今まで自分自身が気付いていなかったことを恐ろしく感じました。心奥の暗闇に潜り、自分の悪の根源、歪んだ価値観、狂気を孕んだ不健全な魂を直視したことで、初めて自分自身を理解し、受け入れることができたのです。」

日本の刑事手続や裁判への批判は、正鵠を得ていて、大半の法律家はこのレベルに届かないことしか言えていない。判決への覚悟もできているし、自分の生の行く末も理解している。ここまで心を強く持てることは驚くべきこと。知的なだけでなく、圧力に屈しない強さを持っている人だけに書ける文章。

この事件については、表面的なことしかわかっていなかったが、とりあえず関連する本は読む。刑の執行がいつになるかはわからないが、木嶋佳苗は自分を保ってその日まで生きられるだろう。