毒婦

北原みのり『毒婦 ─木嶋佳苗100日裁判傍聴記』朝日新聞出版、2014


木嶋佳苗裁判(第一審)の傍聴記。朝日新聞の依頼で、著者がすべての公判を傍聴した記録。

著者が見た範囲のことしか書いていないし、取材は最小限のことしかしていないので、著者の目を通したことしかわからない。まあ、当然ではある。

著者は率直に書いているが、やはり木嶋佳苗がどういう人なのか、非常に戸惑っている。公判の途中で例の朝日の記者にあてた手紙が公開されたので、それは読んでいるが、あくまで木嶋佳苗が外に出したかったことを出しただけという立場。あまり内容を咀嚼したものではない。

それでも興味深いのは、木嶋佳苗の法廷での態度。完全に自分のしたこと、つまり男性関係について、主体的で揺るぎない。男性は自分が求めたもの、多くは金を支払うべき存在。木嶋佳苗は、男を体で釣っているが、それは木嶋佳苗が主体的に提供している。木嶋佳苗は、実際に売春も行っているのだが、交際相手からカネを引き出す行為はそれ自体は売春ではないという認識。

裁判に出てきた相手に関しては、完全に木嶋佳苗に主導され、それに従う存在。男性側の主体性はない。睡眠薬を飲まされて、意識のない状態で、「あなたはわたしとセックスした」と言われて、平気でまた会おうとするというのは、頭がおかしい。逆に木嶋佳苗は、そういう人を相手に選んで、相手を操作している。

木嶋佳苗は、自分には揺るぎはないが、根本的に人に対して、欠けているところがある人。それは手記を読めばわかった。死刑確定の後は、親、夫、弁護人以外は会えなくなるから、謎の人のまま終わってしまうのだろう。この本は完全ではないが、出ただけでもありがたい。