フェミニストたちの政治史

大嶽秀夫フェミニストたちの政治史 参政権、リブ、平等法』東京大学出版会、2017


大嶽秀夫はまだまだまるっきり元気で、こんな本を出していた。日本では政治学者が女性運動に関心を持つことは少なく、著者は、自分がその最初の一人だと言っている。この本は、政治学者から見た、フェミニスト運動の歴史。そんなに厚い本ではないが(300ページに満たない)、イギリス、フランス、アメリカ、日本を含み、18世紀末から、現代まで取り上げている。通史になっている。

昔の(18,19世紀の話)もろくに知らなかったので、非常に勉強になったのだが、一番勉強になったのは1960ー70年代のアメリカでの女性解放運動と、日本での女性運動の歴史。

特に日本では、女性運動はあったが、運動体が直接影響力を発揮したというよりは、その主張を部分的に取り込んだ、政治家や官僚の力が大きい。どちらかといえばポピュリズムでリベラル志向の首相たち(橋本、小渕、森、小泉ら)が、女性運動の主張を取り込んでいったので、女性運動の主張は自民党政権でも、内部にビルトインされた。

右派的な女性運動に対するカウンター、つまりいうところの「バックラッシュ」に対しては、著者は「派手に取り上げられたが、政権にアクセスすることも、世論を喚起することもできなかった。最後のあがき」と評している。現実に、安倍内閣でも、女性が輝くなんちゃらと言っているわけで、一部で言われているほど、政策に影響を持っているとは思えない。

著者は、この問題の専門家ではないのに、これだけの通史を書けた。しかも、自身がフェミニストの立場に完全に組みしているというわけではないので、非常に読みやすい。フェミニスト自身の本は、自己反省というものがないことが多く、読むに耐えないことを考えれば、貴重なこと。読めてありがたい本。