東国武将たちの戦国史

西股総生『東国武将たちの戦国史 「軍事」的視点から読み解く人物と作戦』河出書房新社、2016


軍事史の視点から戦国史を書き換えている著者の、「東国での戦国史」。取り上げられているのは、長尾景春太田道灌、伊勢宗瑞、北条氏綱武田信虎長尾為景北条氏康、山本菅助、上杉謙信武田信玄武田勝頼北条氏政戦国史のスターばかりだが、その人々の人物伝にとどまらず、彼らの事績を再検討するのが、この本の趣旨。

あらためて納得するのは、戦国大名とは本質的に戦争マシンだということ。彼らの権力の中核は軍事力であり、領民や商人、町は、あくまで軍事力を支えるための付録。巨大な戦争マシンを存続させるために、一番必要なものは、対外戦争。対外戦争をすることで、内紛はある程度抑えられ、略奪で兵の糧食は足り、戦利品も獲得できる。だから、戦争を続けていくほかはない。

この章も読みどころがあるが、とくに興味深いのは、長尾景春太田道灌を扱った1章、上杉謙信の関東侵攻を扱った7章、武田勝頼の政策と滅亡を扱った9章、小田原の役を扱った10章。

すでに定説または常識として定着した考え方も、資料の読み方と軍事史の視点からの再解釈でまったく違った姿が現れるということ。武田勝頼の滅亡は、長篠の戦によるというよりは、勝頼の脆弱な主従関係と御舘の乱での失策による外交的な破綻が大きいという説には非常に納得した。

わかったようになっていることも、資料の見直しと新しい視点で、ぜんぜん違って見えてくる。この説の当否は歴史学者でないとわからないが、自分にとってはとても刺激になった。