この世界の片隅に
「この世界の片隅に」、片渕須直監督、「この世界の片隅に」製作委員会、2016
やっと見てきた。しかし、3月だというのに、よく客が入っている。以前に映画館に行った時には満員で入れなかった(定員制)。この時期になっても7割くらい客が入っている。土地柄、しょうがないが、当分上映は続けているだろう。
原作マンガはもはやおおざっぱにしか覚えていないのだが、原作同様、「21世紀になってからできた、リアル銃後映画」として、完璧な作品。細かいところにいちいち配慮が行き届いていて、おそらく3度くらい見ても、全部はわからず、資料集が必要だということになるだろう。
隣のBBAがずっとグシュグシュ泣いていて、うるさいなあと思っていたが、映画が終わった後で、連れのジジイに「こんなに大変だったんだねえ」と言っていて、唖然とした。しかしこれが現実。戦後71年以上経っているのだから、80歳代以上でないと、この映画に描かれた風景のリアルな記憶はない。子供だろうとBBAだろうと、この映画は「史劇」であることには変わりはないのだ。
呉空襲や戦時中の呉の様子を地元のジジイやBBA以外の人が知ったのは、原作マンガが出版されたあとのことで、それを読んでいる人を除くと誰も知らないような話。しかし、現在知ることができるかぎりでもここまでのことはできた。これからはどんどん歴史のガラクタに埋もれていくようなこと。
とはいえ、敗戦決定後の、すずの「暴力」なんたらというセリフにはやはり納得行かないものがある。それまでリアル軍国主義みたいなものはぜんぜん出ていなかったし。
すずの声をあてている、能年玲奈こと、現「のん」は非常にハマっている。この成長しきっていないボケボケの感じは、他の女優には出せないだろう。声優でハズレの人はこの中にはいないけど。
音楽も非常にいい。ハマりだ。最後にエンドロールで曲がかかるところで泣けている人もいた。いろいろと計算されつくしている。2016年は当たり映画が多かった。