『こころ』は本当に名作か

小谷野敦『『こころ』は本当に名作か 正直者の名作案内』新潮新書、2012


あっちゃんの古典名作案内。福田和也現代日本小説についてやったことを古典でやろうというもの。しかし現代日本小説に比べると、古典(西洋と日本、中国を含む)は数が全然違うので、こちらの方がはるかに難しい。あっちゃんにしか書けない本。

最高峰とされるのは、『源氏物語』、『イーリアス』、『オデュッセイア』、ギリシャ悲劇。まあ、これはいいとして、その次に来るトップレベルに入っているのは、『ドン・キホーテ』、『ガリヴァー旅行記』、『若きウェルテルの悩み』、『孤独な散歩者の夢想』、『プライドと偏見』、『エマ』、『従妹ベット』、『レ・ミゼラブル』、『荒涼館』、『ジェイン・エア』、ポオの短編、『モービィ・ディック』、『モンテ・クリスト伯』、『クロイツェル・ソナタ』、『オブローモフ』、『ハックルベリー・フィンの冒険』、『王子と乞食』、『鳩の翼』、『水滸伝』(その他の白話小説)。日本では、『南総里見八犬伝』、『草迷宮』、『歌行燈』、川端康成の諸作、『細雪』、『吉野葛』。

あっちゃんは、ここにあげた作家(挙げてない作家も含め)をほぼ全部読んだ上で、これはいい、悪いと言っているので、それに文句はつけられない。しかし、ここにあげられたものの中には、ドストエフスキーがない。トルストイもない。他にないものがたくさん。

実際はそれに意味があるので、あっちゃんは、ドストエフスキーは「正教信者にはいいが、そうでないものにはわけがわからない」と言っている。夏目漱石も、ほぼ脱落。このリストにあげるほどの作品はないという評価。

基本的にあっちゃんは、『他人の評価ではなく、自分の評価』という態度。それでいいと思う。自分の評価というのは、評価には、個人の体験とか、知識とかいろんな要素が入るので、「誰でも納得できる文学作品の評価」というのは、読み手によって違い、あるかないかは疑わしいということ。あっちゃんの場合には、女性経験が重要要素なので、基本的にモテる男視点の作品はだいたい脱落。それもありだろう。

あっちゃんが貶している作品がつまらないかどうかはともかく、文学作品の評価は、数学のようにはいかないので、結局、1人が読めるものを読んで、その評価基準が自分に受け入れられるかどうかしかない。おいしい店の評価と根本的には変わらない。自分は、こんなに読めないので、それは仕方ないとして、とりあえずここに出たものは読んでみればということでは納得。あとは好みの問題。自分は『水滸伝』が『三国志演義』より前に来る理由はわからない(あっちゃんも、三国志演義がつまらないとは言ってない)が、それは大したことではない。