台湾とは何か

野島剛『台湾とは何か』ちくま新書、2016


これは良書。著者は1968年生まれ、元朝日新聞記者で現在はフリーのジャーナリスト。『ふたつの故宮博物院』、『ラスト・バタリオン』の著者。まだ若い人だが、見識のある人。

この本は、現代台湾政治、それも蔡英文が総統選挙に勝った後で書かれた本。だから、なぜ国民党が負けたのかということから始めて、最近20年間の台湾政治、台湾と日本、台湾と中国、アイデンティティ問題など、台湾政治を理解するための基本になることがわかりやすく書かれている。

読んでみてあらためてわかったが、日本にとって、1972年の日中国交正常化(台湾から見れば、中華民国との断交)以後、台湾問題は「見て見ぬふり」だった。中国政府へのおかしな遠慮、台湾に対しての無知、中国への裏返しのような台湾への態度など、変なことばかり。実際、台湾に対する今の日本人の好感度の高さは、東日本大震災への台湾の支援あってのこと。そんなに古い話ではない。また、沖縄問題と台湾の、アイデンティティポリティクスとしての類似点は、この本で指摘されて、納得がいった。

台湾は、「独立」はしないかもしれないが、もはや中国との「統一」には戻らない。2016年選挙での、国民党の大敗北は、単なる馬英九の失敗に対する批判ではなく、馬英九が中国と作った関係性が台湾人から拒絶されたということ。馬英九習近平の唐突な首脳会談の意味がよくわかっていなかったが、国民党が負けそうになって、国民党と共産党の手打ちが行われたということ。台湾人の多くには見え透いた芝居だったので、それは通じなかった。

司馬遼太郎の立ち位置、「抗日」に対する中国と台湾の違い、台湾人の日本への感情など、教えられるところが多い。著者は5年、10年は読まれて欲しいと書いているが、それに値する本。