反知性主義

森本あんり『反知性主義アメリカが生んだ「熱病」の正体』新潮社、2015


以前から読もうと思っていて、放置していた本。しかし、これは本当におもしろい。

よくわかったのは、ホフスタッターが反知性主義anti-intellecturalismと言ったことは、単に論敵をバカの自慢話扱いするためのものではなく、アメリカの特殊な宗教的伝統を踏まえているということ。この文脈抜きに、反知性主義を攻撃しても意味がない。

アメリカの宗教的伝統というのは、アメリカのキリスト教には複数の教派があり、それぞれの教派が政府の保護を受けずに自力で活動すること、その上で、ハーバード大学のような牧師を養成する機関が権威を持っていた知的伝統があり、それを批判する派が、「神が直接、人間に語りかけるから、知識人はむしろその邪魔をする」と考えているということ。

自分がアメリカ史のことをいい加減にしかわかっておらず、なぜアメリカでキリスト教があれほど力があるのか、テレビ伝道師が受けているのはなぜなのか、宗教と政治の結びつきはどうなっているのか、知らないことだらけだったので、すべての内容が勉強になった。

これは共和党民主党かというレベルだけでは、アメリカ社会はわからないということ。民主主義の根本に、「教育を受けていない素人が重要なことを理解する能力を持っている」という考え方があり、それ抜きではアメリカの民主主義は成り立たない。

自己反省なき知性を軽蔑する態度と、強固な知性支持の態度は、表裏一体で、どちらが欠けてもいけない。しかし、これではアメリカ社会は分裂して当たり前。こんなに極端な態度が同じ社会で並立していて(これがアメリカの信教の自由)、政治とも結びついていれば、大変だ。日本人には全然わからない世界。