ルポ トランプ王国─もう一つのアメリカを行く
金成隆一『ルポ トランプ王国──もう一つのアメリカを行く』岩波新書、2017
選挙戦の初期の時点で、たまたま会ったアメリカ人記者に、「勝つのはトランプ」と言われて驚いた著者が、オハイオに張り付いて田舎を回った結果できた本。田舎でトランプを支持している人がどういう人か、要は潰れてしまった工場町にいる人達。職場にいる時は組合員なので、元は民主党支持者。クリントン政権の時が一番よかったと言っている。しかし、今は工場などどうにもならず、ワシントンDCにいる既成政治家は金持ちしか見ていないと思っている人たちがトランプにやらせろと言っているというはなし。
これ自体は目新しい話ではないが、実際に著者が一人ひとりと会って話を聞いているので、説得力は大。朝日の支局はニューヨークやロサンゼルスなんかにしかないので、そこにいるだけではこの本は書けない。
1章だけがサンダース陣営の取材にあてられていて、そっちも似たようなもの。とにかく既成政治家をやっつけろという話。
もちろん著者はエリート様なので、トランプ大嫌い。最後の章は、ローティや何やらを引用して、分析的なことを書いているが、ここはトランプ批判全開(ここまでは取材ルポなので、トランプ批判はほとんど書いていない)。
トランプはアメリカだけの現象ではなく、グローバル化で被害を受ける人がたくさんいる先進国共通の現象の露頭だということ。このあたりは、きれいごと大好きな朝日の記者としては当然の文章。とはいえ、自分の首がかかっている人たちには、ヒラリー・クリントンは唾棄すべき敵だということ。