陰謀史観

秦郁彦陰謀史観新潮新書、2012


歴史、特に日米関係についての陰謀論の本。著者は陰謀論と実際に戦っている人なので、内容は確実。

戦前の陰謀論から、現在のものまで幅広く扱っている。戦前の陰謀論(日米必戦論など)についてはほとんどわかっていなかったので、非常に参考になった。アメリカのハワイ併合も、日本では邪魔するつもりになっていた人がいて、アメリカもそれを懸念していたという話。実際は、ハワイ併合は1893年で、翌年に日清戦争があるので、日本はハワイなどにかかわっている余裕は全くなかったから、あきらめた。

その後に重要になるのは、現在まで続く、「アメリカの陰謀」論。ネタにされているのは、渡部昇一西尾幹二江藤淳藤原正彦田母神俊雄小堀桂一郎ら。特に厳しくやられているのは、江藤淳。著者は、江藤淳と同じ、ロックフェラー財団の給費留学生で一年違いでアメリカに行っている。1962年、63年という時期で、月に350ドル。当時のドル価値を考えれば安いとは言えないとは思うが、著者はこれでは生活できないと思って、別の奨学金を取り、さらに私費も持っていったので余裕があった。江藤淳は、安すぎると思って、財団から奥さんの病気の治療費をもらっていたという話。

これ以外は、コミンテルンルーズベルトユダヤフリーメーソンなどなど、陰謀論のネタにされるものがどのように使われているかという実例。陰謀論はネタが豊富だし、反証可能性がないようにできているので、いくらでも出てくるというおはなし。

基本的に、議論の構図が、左派の歴史家(プロ)と右派の陰謀論者(アマ)の対決になってしまっており、どっちでもない人は不毛な話に関わりたくないので、傍観。この図式はずっと変わらない。