太平洋戦争のif

秦郁彦編『太平洋戦争のif 絶対不敗は可能だったか?』中公文庫、2010


これは文庫が2010年となっているが、もとは2001年ごろに(時期不明)グラフ社から単行本として出ており、その元になった雑誌連載は1985年に掲載された。1985年くらいなら、この程度の妄想も許される範囲だったということ。

執筆者は、もう鬼籍に入ったか、現在も活躍している人々で、半藤一利(序文のみ)、秦郁彦、土門周平、野村実、檜山良昭、戸髙一成、横山恵一、大木毅というメンバー。取り上げているのは、「絶対不敗態勢」(要地占領時点で守勢)、日ソ戦、真珠湾北アフリカ進攻、ミッドウェー、重慶進攻、ガダルカナル、レイテ湾、本土決戦、米本土上陸という並び。

真珠湾とミッドウェーについては、海大方式で図上演習を行ってプレイレポートを載せている。この部分の執筆者が大木毅。この図上演習、東大教授だった関寛治が入っている。こういうことも好きな人だったのか。この図上演習は、かなりおもしろい。

しかし、実際に現実味があるのは、真珠湾とかミッドウェーのような、事実を少し改変するだけの部分。北アフリカ進攻とか、そういう話もありましたというもの。米本土上陸というのは、山口多聞がハワイ攻略という進言を上層部にあげていて、それに参謀らしき筆で、「大学校の図演ならしからん」と小馬鹿にしたようなコメントを書いていたという話。ハワイが占領できたら、カリフォルニアに攻めていくという夢の話。

最初に出ている秦郁彦の章は、ウェーク島ニューギニア、ソロモン進攻は止めてそれまでの占領地確保に専念し、列島線に機雷堰を形成するという話。機雷堰自体は機雷さえあればできるが、日本は感応式機雷は持っていない。それでもバシー海峡以外は機雷敷設はできたという。やっていれば、アメリカは余計な手間はかかっただろうが、その場合も、ニューギニアから島づたいに占領するか、マーシャル諸島に来攻するか、どっちか。その間にドイツが負けてしまえば勝機はなくなることは著者も認めている。

これ以外の重慶進攻は当時でも無理だと思われていたし、ソ連進攻は、ソ連軍が半減することが前提で、それですら実行できたかどうかは疑わしい。まあ、どうやっても無理なものは無理。