イスラム国「世界同時テロ」

黒井文太郎『イスラム国「世界同時テロ」』KKベストセラーズ、2016


最近の、イラク、シリア情勢の本。パリ同時テロの直後に出ているので、その背景にあるムスリムによるテロ攻撃の拡大の背景を説明する。

ISの戦線は3つ。1つがIS本体が戦っている、イラクとシリア。ISにとっての主戦場で、ここから簡単に他所に動くことはできないので、ここでの攻防の結果でISの命運が決まる。

2つ目は、リビアアルジェリア、モロッコなど、マグレブ諸国、ナイジェリア、アフガニスタンチェチェン、イエメン、東南アジア、トルコなど不安定な他のイスラム圏の国。ここはもともと個別の事情で不安定な地域で、テロ組織も地元の組織。それがISの主張に賛同して、テロ攻撃を行っている。しかし、個別の組織がISとどのような関係にあるかはよくわからない。

3つ目は、西欧先進国やアメリカ。これらの国にいる地元のムスリムがISに同調してテロ攻撃を行う場合。これはもはやISとの直接的なつながりはあってもなくてもよく、ISに賛同する者が勝手に地元社会を攻撃する。欧米で騒がれているのこれ。

ISはイラクアルカイダの後身だが、構成員は、地元の過激なムスリム、外国の戦争帰りの兵士、旧フセイン政権幹部。これがシリアに拡大したのは、シリアでの内乱により、IS傘下に参じる過激ムスリムや外国人兵士が拡大したから。

本家アルカイダが鎮圧されて弱っていた時期、テロは相対的に低調だった。しかし、イラクとシリアの不安定に乗ってISの勢力が拡大すると、テロもそれに応じて拡大。もはやもぐらたたき状態。

すぐに効く特効薬はないので、テロ組織と個別に戦うしかない。現在はISが相手。しかし、イスラム諸国の不安定状態は続くので、これからも間欠的にテロとの戦いは続くことになる。そのたびに、社会的不安定と、欧米諸国でのイスラム嫌いが拡大すると、さらに事態は悪化する。こんな状態では、日本も難民受け入れなど絶対にできないだろう。