最後の秘境 東京藝大

二宮敦人『最後の秘境 東京藝大─天才たちのカオスな日常─』新潮社、2016


秋ごろに出版されて、けっこう話題になっていた本。やっと読めた。

タイトル通り、芸大生の日常生活を取材してきた本。著者の奥さんが彫刻科の学生なので、奥さんが家で何をしているかということが最初に書いてある。

上野の音楽学部、美術学部を中心に、各学科の在学生にいろいろと聞きまわっている。著者の視点は、「どういうふうに変わっているか」。これは正解。限られた人だけが内容を突っ込んでいる芸術の世界に素人がそのままでかっていっても、それで内容がわかるわけはない。素人にわかるのは、芸術をやるといっても、「どんなふうにやっているのか」ということのみ。

美校は出入り自由だが、音校はセキュリティ厳重(楽器の盗難防止)とか、そんなところから外部の人間にはよくわからず、専攻ごとにしていることもバラバラなので、それをちょっとずつ見せてくれるところがおもしろい。まあわかるのはここには普通の人はいないということ。芸術家が普通の人では困るわけだし。

しかし、卒業生が芸術家になれるかといえばそうはいかず、多くの人は進学(留学含む)。就職している人は1割くらいしかいない。そして4割くらいの人は「進路未定・他」。

芸大は、学生が2000人ほどしかいない大学。しかし、日本に毎年500人も芸術家ができたら困るし。いつごろまでみなさん、望みを捨てないのだろうか。