絶望のテレビ報道

安倍宏行『絶望のテレビ報道』PHP新書、2014


著者は、フジテレビに中途入社で入り、「ニュースJAPAN」、「BSフジプライムニュース」のキャスター、経済部長などを務めて、現在はネットメディアの会社を興している人。

この本も、『TVニュースのタブー』と同じく、テレビ局の内側にいた人がニュースがつくられる現場を語っている。しかし、違うところは、「このままではテレビ報道は負けゲーム」になるという明確な批判があること。

こちらの著者は、テレビニュースのVTR至上主義=完パケ至上主義が、記者のやる気と体力を奪っていると考えている。民放局の社内スタッフの少なさ、一日に生産するべきニュースの多さ、視聴率至上主義を考えれば、それは当然。現にNHKでさえ、夜9時のニュースはあからさまに民放局の後追いをしているので、これは、フジテレビやテレビ朝日という個別の局の問題ではない。

著者は統計を使って、テレビの総視聴時間は変わっていないが、総世帯視聴率(リアルタイムでテレビを見ている世帯の割合)は、2000年代以後5%程度下がっているとする。世代別の数字は出ていないが、テレビ視聴者が高齢化しつつあることは事実なので、テレビはネットに場所を取られている。

著者は、テレビのコンテンツをネットではやらせて、両者を融合すべきだと考えている人。自分自身がネットメディアを経営しているので、それが現段階でなかなかうまくいかない理由も熟知している。結局、テレビはネットをうまく取り込むことができず、ネットは広告システムで収益を出せないし課金制では人を集められない。書き手の数は限られていて、動画もなかなか再生してもらえない。

テレビは、勝手に流れているものなので、だらだら見る人のために作られている。この形式で、じっくり見る人や深く知りたい人のためのニュースを作るのはむずかしい。もっと早い時期に、ネットメディアに民放局が買収されていれば、違ったのかもしれないが。