日本人の給与明細

山口博『日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情』角川ソフィア文庫、2015


『古典でたどる日本サラリーマン事情 現代に換算して見る日本人の生活史』PHP、1988の文庫化。非常におもしろい。

政府から「給与」を与えられていた「役人」がいたのは、明治以前では、律令制の時期と近世なので、記述もそこが中心。

律令制官僚の生活は、そこが著者の研究分野(和歌)につながっているので、非常に詳細。従五位下より上と、その下だとどのくらい収入が違うのか、位だけで官がないとどの程度違うのか、出世の確率とスピードがやっとわかった。五位以上で150人くらい、三位以上で30人くらい。

門閥貴族はいいとして、そうでない者が大臣になることがどのくらい困難か、皇族か藤原氏以外で大臣になった者は十世紀までに、道鏡吉備真備清原夏野菅原道真の四人だけ。ただの人が上に上がれる可能性はほとんどない。

大学を出て公卿になれたのは52人。それ以外は五位の地方官どまり。52人でも、三分の二は参議か非参議止まりで、大臣になれたのは2人、正二位まで行けたのは3人しかいない。

また売位の価格が表になっていて、無位でも金を出せば外従五位下になれるが、銭一千貫とか、穀五千石とか、そういう値段。しかも、相場に相当するものもなく、バラバラ。位の授与に与った者が同じではないから当然かもしれないが、これでは位を買う方もたいへん。

売官の価格表もあり、国守重任で、絹十万疋=三十万石という。これではよほどの苛斂誅求をやらないと、重任はできない。昔、枕草子で、除目がどのくらい大変なことだったかということを読んだが、この本でも詳しく書かれていて、位だけあって官につけないとやっていけない。

近世からは、武士だけでなく、商人の生活も書かれている。記録に残っているのは大商人だけだが、これは特別。しかし、ここで子供として勤めた者のうち、番頭になれるのは一割。後は脱落。年に休みは2日しかない。

武士も、高位の者以外は厳しい。百石は軽輩のようでも、それなりの地位。水戸家で家臣千人、うち百石取り以上は三百人。これでも妻子の他に家来や女中を雇うので、7人か8人くらいを養う。収支はぎりぎりで贅沢はできない。

大田南畝が、七十俵五人扶持で、同時代の同じ給与の者の生活が出ているが、ほとんど余りはない。主人の小遣いは一年で五百文しかない。

現代のように、衣服でも外食でも宿泊でも安い時代ではないので、それらを買って調達しようとすると、何でも高い。宿泊は二百文、昼食でも百文、駕籠に乗れば全行程で十五両。遊女は、安い方で昼四百文、夜六百文という。

現代の価格とは米価で通算してあるが、近世以前の生活は律令官僚や武士といっても、かなり厳しいものだったことがよくわかる本。重宝させていただいた。