中国の論理

岡本隆司『中国の論理 歴史から解き明かす』中公新書、2016


岡本隆司の中国史の本。新書一冊、それも230ページくらいの薄さで、よくここまで書けると思うが、相変わらず明快な説明。

国史を説明する基本的な理屈がいくつか提示される。まず「歴史」。歴史といっても、ただの事実の羅列ではなく、過去の評価と現在に対する評価の入ったもの。正統性と結びついている。これをもとにして、過去と現在の全体像が決まるもの。

次は「社会と政治」。貴族制が科挙による官僚制になった後も、上層と下層に二分された社会だということは一貫している。「士」と「庶」の隔絶の上に社会が分化し、政治は「士」の仕事。「庶」がくちばしを入れるところではない。

その次は「世界観と世界秩序」。つまり「華夷」の序列の上に成り立つ世界観。中華は、実力で決まるものではなく、常に中華であって、夷はいかに強力であっても、中華の下にあるもの。

これらのことの上に、中国の「近代」があり、それに接続するものとして、人民共和国以後の中国があるということ。「士」と「庶」の別はなくなったように見えて実際にはなくなっておらず、社会の二分化は続いている。「華夷秩序」の序列も、それを正当化する歴史の見方も、中国人と中国社会の基底をなしていることは同じ。

いまどきの「中国嫌い」の流行りにも、著者は一言持っているが、この本が「中国のおもしろさ」を味わうよい材料になっていることは事実。このくらいの大整理がないと、長い中国史は読めない。ちゃんとブックガイドがついていて、やや古い著作がかなり挙げられているところもよい。