日中関係史
岡本隆司『日中関係史 「政冷経熱」の千五百年』PHP新書、2015
もちろん新書ですべての時代のできごとを細かく書くことはできないのだが、その趣旨は、「日本は中国のことを理解しようとしておらず、中国も日本を理解しようとしたことはなかった」というもの。
現在の日中関係においても、そのことは変わらない。「爆買い」も「反日デモ」も同じようなもので、簡単にいえば、自分の認知枠組みに合うできごとしか知りたくないし、見たくないということ。隋唐期以前の日中関係もそういうものだったので、中国の史書にある日本の姿は中国から見て、そのように見えたということに過ぎず、日本がどのように中国を見ていたかはまったく別の話。
結局明代まで、日本は中国に対して限定的な経済関係を結んでいるだけ。律令制だの儒教だのというものは、日本が自国に都合のいい範囲で選択的に受容したもの。中国から見れば、日本はまともに相手をすべき対象とは見えていない。
明代、つまり日本が銀を中国に大規模に輸出できるようになると、日本と中国の関係は経済的に切り離せない関係になっていく。しかし、だからと言ってお互いを理解しようとはしていないし、日中関係は中朝関係のように不可分なものではなかった。
清代初期から、19世紀末までの記述が一番おもしろいところで、中国の条約締結から日清戦争までの歴史は、中国の国際秩序への編入などではまったくなく、日本という新興勢力を手なづけるための中国的な方略とその破綻だったという話。著者は、李鴻章や袁世凱の伝記を書いている人なので、このあたりの歴史は非常によく書けている。
日本と中国は昔から関係のある国だったとはいえ、所詮は「中華」と「辺境」の関係でしかなく、相手は自国にとって都合のいい範囲でしか受容しないということは、よかったのかそうでなかったのかということはともかく、事実としてそのとおり。それがよくわかっただけで、この本を読んだ甲斐はあった。