五分後の世界

村上龍五分後の世界幻冬舎文庫、1997


村上龍の昔の小説。圧倒的におもしろいわ。

単行本が刊行されたのは1994年。ソ連はなくなり、昭和天皇も死んでいた。

文庫本で約300ページだが、132ページに行くまで、状況設定の説明がない。それまでの間は、よくわからない状態でえんえんと戦闘が続き、その後もそう。しかし、これがいい。圧倒的な力で読者を戦争の世界に引きずり込んでいる。

この小説が書かれた時点での、1990年代の日本。日本は、1945年以後も連合国との戦争を続けている。連合国は、アメリカ、ロシア、イギリス(途中で離脱)、中国。米ソ対立や中ソ対立、朝鮮戦争ベトナム戦争も起こっていて、日本との戦争は、それを背景に続いている。ここでの主な相手は、「国連軍」(アメリカ)。

日本はもはや大日本帝国ではなくなり、天皇はスイスに逃げた。まだ日本だと言っているのは、人口わずか26万人になり、地下2200メートルまで、長さも知れない地下壕を掘って抗戦している。連合国は、「技術移民」と称して大量の移民を送り込んできたので、日本の住民の多くは混血。もうこの世界では、「純血日本人」など意味ない。

もちろん住民のほとんどは、国連軍と戦争などする気はなく、「非国民村」といわれる国連軍の協力者として生活している。これは『愛と幻想のファシズム』での、「奴隷」。

まだ日本を名乗っているのは、プライドを持った人々だけ。全部戦士。主人公は、いきなり現代の日本から、この「五分後の世界」に飛ばされてきた人間だが、この世界の地下「日本」に圧倒的に順応する。これは本人が「奴隷」ではないから。

ラストが非常にかっこいい。主人公が心を決めたところでおわり。これでちゃんと終わっている。涙。