ゲッベルス
平井正『ゲッベルス メディア時代の政治宣伝』中公新書、1991
もうだいぶ昔に出た本だが、非常におもしろかった。良書。
ゲッベルスはナチ党幹部の中でも博士号保持者で、それなりのインテリだが、初期からの幹部だから、考えていることはナチの世界観どおりの人。そうでなければ大幹部にはなれないのだけど。しかも、もともと反ユダヤ主義だったのではなく、途中で転向した人。人の結末というものはわからない。
ゲッベルスは途中までナチ党左派のシュトラッサー兄弟についていたわけなので、非常に危ない橋を渡っていた人。しかし、シュトラッサーらとゲッベルスの違いは、ヒトラーへの忠誠心と、ヒトラーからの信頼があったかどうか。ゲッベルスにはこれがあった。これはやはりゲッベルスの能力が買われていたということ。
圧巻はやはり「総力戦演説」。これの出来がゲッベルス評価の根本。やはり宣伝の価値は、苦しい時に一番発揮されるということ。演説のやり方ではない。内容がすべて。ゲッベルスは、それがウソであっても何でも、国民の心を結集するために必要なことを知っていた人。