嫉妬の世界史

山内昌之『嫉妬の世界史』新潮新書、2004


山内昌之の歴史エッセイ。別にロシアやイスラム圏の歴史人物に限った話はしておらず、日本、中国、ドイツなど、また政治家、軍人、医者、学者、などなど、幅広くとりあげている。

タイトルどおり、内容は「嫉妬」。それもだいたいは男の嫉妬。男の嫉妬は、女の嫉妬と同じかそれ以上にいやらしく、特に権力や地位が絡んでいるので、容赦ない。

特に学者の嫉妬は、著者自身の商売に関わることなので、内容が濃い。物理学者の茅誠司中谷宇吉郎(こっちの方は知らなかった)、植物学者の牧野富太郎、みな名を成した人。しかし、いろいろ嫉妬で苦しんだ。学者の嫉妬など、権力に遠いのだから大したことはないはずだが、当人にとってはそんなことはなく、何々になれなかった、誰それが邪魔をした、ということでずっと恨みがたまるもの。

日本社会では、頭ひとつ抜きん出ると必ず嫉妬を買うもの。これは昔も今も同じ。嫉妬を買わずにすんだのは、ひたすら誠実、忠実をつくして自分をおさえていた人だけ。

他の国もけっこう事情は似ているが、政治家や王の嫉妬は、命がなくなることになるのでおそろしい。山内先生のような碩学は違うのか?さすがに歴史学者の嫉妬については書いてない。