武器輸出と日本企業

望月衣塑子『武器輸出と日本企業』角川新書、2016


武器輸出三原則の改定関係で新しいことが書かれているかと期待して読んだが、これはただのダメ本。著者は、中日新聞記者。ろくでもないわ。帯に「森達也氏推薦」と大きく書いてあったので、いやな予感はしていたのだが。

第一の問題は、著者がこの分野の問題を包括的に理解していないこと。武器輸出とはどういうもので、何のためにおこなわれるものかということをよく知らない。日本の武器輸出三原則や大学での軍事研究拒否は、その中の特殊なケースだということを知らない。

第二の問題は、基礎的な知識がないこと。「無人戦闘機」と「無人攻撃機」という言葉が同じページに両方出てくることが何度もある。現在あるのは、「無人戦闘機ではない」ということを知らない。防衛装備品の国際共同開発とこの問題がどう関係しているかということを知らない。「日本は武器輸出専門の企業を作るつもりではないか」という獨協大学名誉教授の西川純子の発言を引用しているが、この発言自体が電波でしょ。それがわからない時点でダメ。

第三の問題は、著者は「武器輸出は倫理的に悪」という立場をとっていて、それがこの本全体に反映されているが、著者の中で自分の倫理観がきちんと整理されていないこと。武器輸出は悪なのであれば、国産して輸出しないのはいいのか。外国から輸入するのはどうなのか。日本が戦争に参加すれば、輸出していなくても日本製の武器で人が死ぬのだが、それはいけないのか。こういうことをスルーして、「日本製の武器が輸出されて人が死ぬのはよくない」とだけ述べても説得力はない。著者のぬるい価値観の底の浅さが見えるだけ。

オーストラリアへの日本潜水艦輸出プロジェクトがつぶれた理由くらいせめて書いてあるだろうと思ったら、「熱意が足りない」というオーストラリア側の言葉を引用するだけで終わり。その「熱意」の内容を調べてくるのが記者の仕事でしょう。中日新聞はこういうのが多いのか。参考文献の記述もなく、関係者へのインタビューの多くは断られていて、聞いたことをつぎはぎして作った本。それじゃこういうものしかできませんよ。