芸能人はなぜ干されるのか

星野陽平『芸能人はなぜ干されるのか 芸能界独占禁止法違反』鹿砦社、2014


非常におもしろい本。著者は1976年生まれ、フリーライター。もともと芸能を扱っていた人ではなく、この本のために調査を始めたという人。それがよかった。利害関係者ではないので、書きたいことが書けるのだ。

これまで芸能界で「干された」人が、なぜそうなったのかを明らかにしている。取り上げられているのは、北野誠鈴木あみセイン・カミュ水野美紀川村ゆきえ眞鍋かをり小林幸子野久保直樹水嶋ヒロ沢尻エリカ、松本恵、吉松育美などなどの人々。最近話題になった、まだ現役でいる人が多く取り上げられており、当然本人に対する取材はできない。

著者の方法は、週刊誌の記事を片っ端から洗うこと。力仕事だが、これが一番確実な方法だろう。新聞は芸能記事は書かないし、芸能メディアは暴露記事は書けない構造になっている。

芸能人が干される理由は、単純に芸能プロダクションと芸能人の力関係が、プロダクション側に圧倒的に有利だから。プロダクションと芸能人の契約は、ほとんど「奴隷契約」で、芸能人側に圧倒的に不利。芸能人は、さまざまな名目で、出演料の多くをプロダクションに吸い取られることになっている。

また、プロダクションは数が多いが、大手のプロダクションは音事協日本音楽事業者協会の下にまとまっていて、引き抜き防止やプロダクションの利益に反する芸能人の排除でまとまっている。芸能人側は組織がないので、対抗手段がない。テレビ、ラジオ、レコード会社などは、芸能人の供給をプロダクションに支配されているので、逆らえない。

この本は、「芸能プロダクションの歴史」にもなっていて、渡辺プロダクションジャニーズ事務所吉本興業、バーニング・プロダクションなどの支配力を持つ大手プロダクションがどのようにして支配力を持つようになったのかという事情を細かく調べている。これがこの本の重要な読みどころ。

韓国芸能界、ハリウッド、声優業界などの別の業界のことも書かれていて、プロダクションの独占支配が問題の基本にあることがよくわかる。韓国芸能界は、日本芸能界と同じシステム。ハリウッドと声優業界は、全く違うシステムで、それは芸能人側が組合を持っているから。

芸能界と同和問題在日朝鮮人問題のようなテーマにも一章があてられている。付録がカリフォルニア州労働法・タレント斡旋業規制の引用になっていることもおもしろい。