女が動かす北朝鮮

五味洋治『女が動かす北朝鮮 金王朝三代「大奥」秘録』、文春新書、2016


中日新聞の五味洋治による、「北朝鮮政治における女性の役割」。非常におもしろい。

基本的に北朝鮮は男性優位の社会だが、金王朝の三代独裁のおかげで、王である金日成金正日金正恩の、母、妻、側室、妹、娘などの役割が非常に大きくなった。王に一番近いところにいるのだから、ある意味自然なこと。

この本で取り上げてられているのは、金正恩の妹、金与正、金正恩の腹違いの姉で金正日の長女、金雪松、金正恩の妻、李雪主金正日の妹、金敬姫金日成の妻で金正日の母、金貞淑金正日の最初の妻、成惠琳、金正日の妻で金正恩の母、高容姫など。

どの人物も北朝鮮の歴史に必ず登場する重要人物。しかし、この人たちに直接焦点が当てられていたことは少ないので、彼女らの人生とその影響力についてはこの本で改めて学んだことが多い。

基本的には、金日成金正日も、妻または側室は次々と変えていたので、王の寵愛が薄れた後の寵姫の人生は悲惨。逆に、自分の母が早く亡くなったり、母の辛い境遇を知っていた金正日金正恩では、その反動が出た。

また「信用できるのは身内」の血族社会なので、姉妹や伯叔母などの役割も重要。副題に「大奥」とあるが、本当に日本の江戸時代とくらべても、女性の政治的重要性は大きい。ここに着目して本をまとめた著者はさすが。

何より、彼女らの生涯がドラマに満ちている。半分以上は悲劇なのだが、それも含めておもしろい。日本語と韓国語で出版されたこれまでの文献をよくあたっていて、それが本書の価値を高めている。