中国軍を駆逐せよ! 上・下

P.W.シンガー、オーガスト・コール(伏見威蕃訳)『中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す』上・下、二見文庫、2016


この本、いわゆる「if戦記」ものなのだが、著者がこの分野(サイバー戦を含む新しい戦争と軍事技術)の専門家なので読んでみた。おもしろい。

近未来のいつか、中国(共産党に代わり、「董事会」支配体制になっている)が、アメリカを攻撃してくるというおはなし。攻撃の理由はまあ、どうでもいいとして、問題は攻撃の方法。

通信はサイバー攻撃と衛星攻撃でいきなりできなくなり、アメリカの空母と潜水艦は航行中に攻撃されて壊滅。核ミサイル攻撃も、核ミサイルのシステムが攻撃されているおそれがあってできない。アメリカ軍の武器にあるコンピュータチップは、中国製でマルウェア感染していた。

中国軍は、偽装した船に部隊を積んでハワイを攻撃。ハワイは占領される。日本は中立を宣言し、在日米軍基地は使用不能NATOアメリカが勝てないことを見て、中国への武力行使はできなくなる。実質的に解散。

中国軍は、稼働中の原子炉のチェレンコフ光を探知する技術を開発していて、原子力艦はすべて使えなくなる。宇宙を支配するのは中国の有人宇宙ステーション。ロシアも中国側で参戦する。

アメリカの対抗手段は、ハワイに残った兵士のパルチザン活動、ハワイの中国軍へのテロ攻撃。しかしそれだけではどうにもならないので、原子力艦以外の艦船が、残った駆逐艦「ズムウォルト」を旗艦にして、「ゴースト・フリート」として出撃する。

アメリカは海兵隊F-35をかき集めて、強襲揚陸艦にのせ、ハワイ奪回をめざす。当然中国軍も出撃してきて決戦に・・・、というようなストーリー。

ハワイはなんとか奪回され、両方の海軍が壊滅したところで停戦ということになる。ここまで中国側にとって話がうまくいくかなと思うが、アメリカが油断してると、こういうことが起こってもおかしくないですよという本なので、それはよし。

サイバー、宇宙においては、先制攻撃が圧倒的に有利で、そこでやられてしまうと敵に優位をとられてしまいますというのは、納得。最初に空母と潜水艦を潰されると、アメリカにできることは、敵に見つかりにくい部隊を出すしかなくなる。宇宙では、米軍所属ではない私企業の「海賊」が、中国の宇宙ステーションを乗っ取ることになっている。

とにかく、小説としておもしろい。訳者は、アリステア・マクリーンの「女王陛下のユリシーズ号」を思い出させると書いているが、そんな感じ。終わりがスカッとしないところもいい。