イスラム国「世界同時テロ」

黒井文太郎『イスラム国「世界同時テロ」』ベスト新書、2016


黒井文太郎のシリア、イラク情勢本。この7月に出版されたばかり。

ISの歴史本を兼ねているので、「サラフィ・ジハード主義」を奉じる「テロリスト」のこれまでの歴史を簡単に説明する本にもなっていて、その部分はわかりやすい。IS人脈がマグレブ諸国、ナイジェリア、イエメンなどに広がっていること、アルカイダとの関係、分派活動の流れもちゃんと説明されている。

ISの勢力はむしろ縮小していて、その理由の一つは連合軍の爆撃。「連合軍の爆撃には効果がない」という説には根拠がないことがはっきり説明されている。

一方で、ISがすぐになくなる情勢にはなく、その理由は、イラク国内の不安定(シーア派政府によるスンニ派支配地域への襲撃)と、シリア内戦、特にアサド政権が引き起こしている虐殺。ロシアはこれに積極的に手を貸していて、オバマ政権も不作為という形で間接的に貢献していた。

日本は直接テロ攻撃を受ける情勢にはないが、それを理由にいつまでも何もしなくていいのかということにも、少しだけ皮肉を述べている。

著者の政治的立場は明確だが、これはこれであり。いろいろな意見に耳を貸さなければしかたがない。