戦国の陣形

乃至政彦『戦国の陣形』講談社現代新書、2016


「陣形」に着目して戦国時代までの日本軍事史に一石を投じる本。非常におもしろい。

まず「陣形」というものが実際に定型化されるようになったのは、戦国時代から後。それ以前は、散開した状態が「鶴翼」、密集した状態が「魚鱗」という大ざっぱなものでしかなかった。このような陣形の名前そのものは、張良諸葛亮、李善といった中国古典の登場人物から来ているのだが、その陣形というのが実際にどのようなものであったかについて書かれた書物がない。従って、真似しようにもオリジナルがわからない。

戦国時代になって、大名が直属軍を持つようになり、兵種別の編成が可能になってから、やっと「陣形」をとることが可能になった。しかし、これも「鶴翼」「魚鱗」というようなものではなく、兵種別の部隊を順序をつけて敵にぶつけるというもの。実行したのは、村上義清上杉謙信。この方法の有効性が実際の合戦で示されたので、普及するようになった。実際に朝鮮の役では、日本軍が戦列をしいて、兵種ごとにぶつかって来た状況がわかる。

これが江戸時代になると、軍学者によって「創作」されたものが伝えられて「八陣」などの陣形にされた。結局、幕末以後に西洋の軍事学が伝えられるまで、軍学とか陣法といったものは、内容が空のままで受け継がれた。

戦国時代に兵種ごとの編成ができていたこと、それらを隊形を作って動かす方法があったことがわかったのが収穫。しかし、兵種別の編成はできるとして、訓練がどこまでできていたのか、訓練ができていないと、隊形が動いた時に、部隊がバラバラになってしまうのではないか。

この辺のことは別の本に頼るしかない。