安倍政権は本当に強いのか

御厨貴『安倍政権は本当に強いのか 盤石ゆえに脆い政権運営の正体』PHP新書、2015


御厨貴の安倍政権論。とてもおもしろい。

副題のとおり、安倍政権の「強み」、最近、特にリクルート事件以後の自民党の弱体化の分析と、それに伴う安倍政権(自民党)の「弱み」を順番に語っている。

安倍政権の強みは、権力を全部官邸に集約し、官僚を官邸に直接引きつけてコントロールしているところ。自民党は、安倍政権に対する反抗などまったくしようとは思っておらず、政権の言うなりになっている。

これは、リクルート事件あたりで自民党の人材養成システムが壊れてしまい、その後も次世代を育成する努力はされていないことがひとつ。また、自民党の議員は、野党になった時の弱さといったん政権を手放せば、もはや権力が戻ってこない可能性を熟知しており、党内で政権に逆らって干されたり、内紛を起こして政権から滑り落ちることの危険を承知しているため。

安倍政権も、「次の首相」を育てるようなことは何もしておらず、しかも渡っているのはイデオロギーがらみの危ない橋。とはいえ、年金や医療のような難題に対して改革を行うことは難しく、ほぼできない。それを前提とすると、右よりで何でも、政策課題を打ち出すとすればイデオロギー的なことしかできないかもしれない。

小泉政権の評価、小沢一郎の果たした役割、自民党の長期的変化など、読みどころが多い。変えたようであまり変わっていない集団的自衛権の法制化やメリットが薄いような憲法改正になぜ拘っているかについての説明も納得のいくもの。これしかできないからこれをやっているだけというのも、たぶんそのとおりとはいえ、おそろしい。