ナチスの戦争1918-1949

リチャード・ベッセル(大山晶訳)『ナチスの戦争1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、2015


ナチと第2次世界大戦の関わりを、第1次世界大戦の終了時から第2次世界大戦終戦後の1949年までの期間で明らかにしようとする本。

ナチ党を戦争に駆り立てたものは、ひとえに民族と人種についての彼らの信念。ナチ党が権力を取ったのは、彼らの信念を実現するため。また権力獲得後のドイツの政策も、戦争でヨーロッパ東部を切り取って、ドイツの植民地とし、自給自足の体制を作らなければならないというナチ党の信念から生まれていた。

国防軍は、最初からナチ党に融和的で、SA粛清とブロムベルク、フリッチュ解任以後は完全にナチ党の仲間。ブロムベルクやフリッチュも、もともとナチ思想の同調者で、反ナチではない。

戦争開始、ポーランド侵攻はこの戦争がナチ党の民族、人種イデオロギーを実現するためのものということを明白にした。ユダヤ人殺害や占領地での蛮行はいずれもポーランド侵攻から始まっていた。国防軍は、これらの行為に無縁であるどころか、それらの行為に協力し、思想的に支持していた。

ソ連侵攻は、民族、人種イデオロギーの遂行という戦争の性格を完全な形で実現した。占領地での住民への蛮行がパルチザン活動の原因となることを知っていた現地指揮官も、人間以下のロシア人を相応に取り扱うことは当然のことと考えていた。

一般のドイツ人にとっても、ドイツ軍にとっても、戦争の被害は最後の5ヶ月ほどの期間に集中していた。特に一般人にとっては、戦争の苦しい記憶はこの最後の時期に自分たちがなめた辛酸(ソ連占領地からの大量移住と死、レイプ)と結びついていて、「ドイツ人は戦争の被害者」、「悪行はナチが行ったことで、国防軍や一般人は関係ない」というイメージが定着した。これが修正されるのは、1960年代末以後。

新書だが、原注と参考文献リストは訳出されている。この点では良心的。