イスラム聖戦テロの脅威

松本光弘『イスラム聖戦テロの脅威 日本はジハード主義と闘えるのか』講談社+α新書、2015


著者は1961年生まれ、警察庁外事情報部長。本職の人。この本は『グローバル・ジハード』(2008)の改訂版。

ジハード主義の思想とそれに基づく行動を説明する第一部、グローバル・ジハードの実態を説明する第二部、テロ対策を説明する第三部からなる。

ジハード主義の敵はアメリカとその仲間。アメリカは、イスラムの信徒共同体を迫害しているので、アメリカは敵。一般人であっても、敵の一部と見なして攻撃してもよいという考え。

そのジハード主義勢力には、アルカイダの残党(本家アルカイダ)、ジハード主義を信奉しアルカイダの影響下にある勢力(アルカイダ星雲)、イスラム圏の外部にいてアルカイダの思想的影響を受けているテロリストやその予備軍(勝手にアルカイダ)がすべて含まれる。

ジハード主義者のテロ攻撃に対抗するためには、警察と諜報組織が協力する必要がある。それらの組織の国際的ネットワークも必須。テロは事前に対処できなければならず、事後に犯人を捕まえるだけでは足りない。例えば日本で30人程度が死ぬテロ事件が毎年発生すれば、死者の数は交通事故より少なくても、社会は恐怖に陥り、政府は倒れる。

事前防止のためには、テロリストを予備段階で把握し、拘束したり殺害したりすることが必要。また通信傍受を含む情報収集は必須。いずれも日本の今の法律では簡単にはできないことばかり。

著者は、警察の中の人なので、基本的には「日本警察のテロに対する見方」を示した本。しかし、ジハード主義者についての整理やアメリカ、ヨーロッパ主要国のテロ対策についての情報は非常に有益。また、日本では、アメリカやヨーロッパが行っているテロ対策はまったくできず、テロ攻撃を受けても対応できないという主張には説得力がある。

結局、現在の憲法上の自由を全部保護することとテロ対策は両立しない。安全と自由を両方フルに享受することはできないということ。