タックス・ヘイブン

志賀櫻『タックス・ヘイブン─逃げていく税金』岩波新書、2013


タックス・ヘイブン関係のお手軽な本では、これがまともそうだったので、読んでみた。著者は、1949年生まれ、大蔵省入省後、主税局国際租税課長、金融監督庁国際担当参事官、東京税関長などを経て退官。現在弁護士という経歴。この問題の実務専門家。

タックス・ヘイブンは、まともな税制がなく、秘密保持法制があり、まともな金融規制がないところ。パナマカリブ海の小国だけでなく、英王室属領、米領バージン島、スイス、オーストリアルクセンブルクほか先進国にも多数。

イギリスや他の先進国は、タックス・ヘイブンを全体として否定しているのではなく、自国関係、旧植民地のタックス・ヘイブンについてはむしろ保護していて、他国の介入を拒否している。OECDのような機関も先進国が運営しているので、タックス・ヘイブンにフェアに対応しているとはいえない。

タックス・ヘイブンを利用する側の理由は、租税回避や資金洗浄。その中には、政府が諜報関係の表に出せないカネをやりとりすることも含まれる。

著者はタックス・ヘイブンには非常に批判的な立場なので、終わりの部分で対策について述べているが、あまりうまくいきそうには見えない。特にイギリスが自国金融産業を守るために非常に強硬だと述べられているのでなおさら。政治的に統一されていない状態で、金融取引はほぼ自由になっているので、この本が指摘する問題への対策は基本的にはできないだろう。

これまでに起こった金融がらみの主要事件を引用して、何が問題だったのかを説明しながら叙述されているので、非常に勉強になる。読んでよかった。