暴力はいけなことだと誰もがいうけれど

萱野稔人『暴力はいけないことだと誰もがいうけれど』河出書房新社、2010


これは河出書房新社の「14歳の世渡り術」シリーズの1冊。辛酸なめ子の『女子の国はいつも内戦』と同じくくり。

趣旨は、「暴力はいけないとは決めつけられない。時と場合によるとしかいえない。人間は暴力と無縁でいることはできないし、暴力を仕切るのは国家。国家がない状態とか暴力がない状態というものはありえない」というもの。

まあそれはそうでしょうとしかいえないような結論。そもそも暴力がいけないというのは、中学生か高校生レベルの話。著者自身、「人を殺してはいけない」という規則の根拠は存在しないと言っている。

しかし子供はいざしらず、大人が読者対象に入っているのであれば、そこで止まってはどうにもならない。「暴力はどういう時と場合に許されるのか」という話をしなければいけないはず。

国家と法が暴力を前提として成り立っているというのなら、法に反した暴力は許されないということになるのか。革命や内戦はどうなるか。そもそも戦争はどうか。死刑はどうかということになる。もちろん、それらはすべて「時と場合による」としかいえないことになるが、それを言ってしまえば、国家も法も現実に実効支配を確立している間しか正しくないということになってしまうはず。

中学生相手ではこの理屈で十分というのなら、それは中学生をバカにした話。まあ中学生相手に、暴力を正当化する条件を語ってはマズイのか。それにしてもヒネリが足りない。