小泉純一郎独白

常井健一『小泉純一郎独白』文藝春秋、2016


文藝春秋1月号に載っていた「小泉純一郎独白録」の再編集版。雑誌には載せきれなかった分が足してあるので、こちらの方がよい。

小泉純一郎が首相を辞めてから、2016年で10年。もうそんなにたったのだ。講演以外は、自分で何かを語ることはなく、インタビューにも応じないので、これが初めてのロングインタビュー。

インタビュー中、かなり飲んでいるが、もちろんちゃんとしゃべっている。「酒と女は二ゴウまで」とジョークを飛ばしているが、女性関係の話はなし。「相手が生きているから話せない」という。しかし、2005年の衆院解散の記者会見の前にも飲んでいたと言っている。

インタビューの半分くらいは、「原発即ゼロ」の持論を話し倒している。その合間や後に、安倍政権の評価、靖国問題での裏側、政治家論、政治論などをしゃべっている。インタビューは4時間半あったと書かれているので、相当な部分は、しゃべりまくってカットされたらしい。

そういえば、御厨貴が、「小泉純一郎のオーラル・ヒストリーは取れない。人の話は聞かないから」と言っていた。この本を読んでみると、小泉は政治家は辞めても、政治家としての立場で話している。辞めたから全部話すということではない。もっとも、10年前まで首相だった人が、在任中のことをべらべらしゃべるわけにいかないのは当然だが。

むしろ、原発問題以外、特定の立場に肩入れすることは何も言っていない。自民党を否定したり、保守を否定するようなことも言っていない。権力には何が必要かということだけ。原発即ゼロとは言っても、自民党ができないなら政権を代われとは言わない。自民党にさせるしかないと言っている。

小泉進次郎に対しては、愛情はあっても距離をおいた見方。これも、政治家としては当然だが、馬鹿親にはなっていない。

インタビュアーの常井健一が小泉引退後の講演について書いているが、人に話を聞かせる極意がこめられている。演説の方法もうまいが、聞いてもらうためには何を話さなければならないか、よくわかっているということ。

権力者がなぜ権力を持っていられるのか、それがかいま見えるという点ではおもしろい。小泉純一郎は、たぶん自伝は書かないだろう。