新しい左翼入門

松尾匡『新しい左翼入門 相克の運動史は超えられるか』講談社現代新書、2012


これは良書。タイトル通り、著者は左翼なのだが、戦前から戦後の日本の左翼運動の歴史をたどることで、左翼運動が陥っていた穴を上手に説明している。

著者が示す左翼の2つの道は、一つは普遍性と理性から人間の解放を説く道。これを著者は、「嘉顕の道」という。もう一つは、苦しんでいる現場の民衆の側につき、現場から解放を求めていく道。これを著者は、「銑次の道」という。この呼び名は、大河ドラマ獅子の時代」の主人公、苅谷嘉顕(加藤剛)と平沼銑次菅原文太)から取っている。自分は、この時期の大河ドラマの中で、これだけほとんど見ていない(総集編も)ので、ざんねん。

しかし、この本そのものは、主に戦前から戦後初期の社会主義運動の流れをよく整理し、講座派対労農派の対立が主にこの2つの道から来るものだったことを明らかにしている。日本左翼運動史がろくに頭に入っていなかったので、これは非常に勉強になった。

この本の価値は、それだけでなく、この2つの道のそれぞれがどのような欠点を持っているか、なぜ日本の左翼運動が敗北を重ねてきたのかについて、まじめに考察した上で、著者が考える解決の方向を示していること。連戦連敗だけでなく、生ごみのような臭いがする左翼運動でも、まじめな人はこのくらいは考えているということ。

著者は、右翼と左翼の違いは、右翼が「内と外」で分けて、内につくのに対して、左翼は「上と下」で分けて、下に与する立場だと言っている。この定義は直感的に非常に納得がいく。この本は、きちんとした文献リストがないのが残念だが、著者の他の本で補完できるだろう。確実に、読んで得をした本。