ホロコースト

芝健介『ホロコースト ─ナチスによるユダヤ人大量虐殺の全貌』中公新書、2011


ナチスホロコーストを概観した本。NSDAP以前の反ユダヤ主義から、ヒトラー政権初期のユダヤ人迫害、ポーランド侵攻による隔離政策、ゲットー化の経緯、ソ連侵攻とアインザッツグルッペンの活動、ドイツ指導部での議論を経て、絶滅収容所へ政策が転換していく過程を要領よく追いかけている。

巻末では、ユダヤ人絶滅政策の起源についての学界での論争を簡単に紹介しながら、重要な本と論文、研究者、研究の論点が紹介されている。入門書としてこなれているし、図版も豊富で基本的なことはだいたいわかる。この本が書かれた時点までのホロコースト研究の状況を把握できる良書。年表や文献案内もついていて、親切。

反ユダヤ主義が、絶滅収容所に至るまでの紆余曲折が丁寧に説明されていて、著者がこの間の単線的ではない道筋をできる限り忠実に把握しようと努めていることがわかる。良心的な本。