圏外編集者

都築響一『圏外編集者』朝日出版社、2015


都築響一の「仕事自伝」。自分の仕事の履歴を書くことを通じて、編集者としてのこれまでの人生を書いたという本。しかし、仕事のこと以外の私生活は出てこないので、「規格外ライター」としての都築響一についてのみ書かれている。

都築響一の本は、数十冊という規模で出ているし、ご本人は今年還暦ということになっていて、仕事の経歴のほとんどが執筆に投入されているので、たいへんな仕事量。しかも、その仕事は、「メジャーにならないもの」に向けられてきた。当然、ただ順調に仕事ができたわけではなく、自分の記事を雑誌に載せ、本として出版すること自体が戦い。この本にも、自分の企画が編集部に相手にされなかったり、出版されても文庫化されなかったり、印税をもらえなかったりした話がたくさん出てくる。著者も相当うらみつらみがたまっているのだが、それを前向きな方向に向けているのがえらいところ。

この本に限らないが、都築響一は、メジャーなもの、アカデミズム、評論家や批評家に非常に厳しく、マイナーな(ほとんどはプロではない)クリエイターに対して優しい。この本で、大学では米文学専攻だったと書いているのだが、大学名は書いてない(他の著書でも卒業した大学を書いていたことはないはず)。組織に依存して仕事をしている人、エスタブリッシュメントがちゃんとやるべきことをしていないから、自分が本を出していると書いている。

都築響一の現在の活動は、有料メールマガジンの発行が主なのだが、このメルマガ、量が半端ではなく、読み切るのが大変。当然執筆はとんでもなくたいへんなはず。取材がないと書けない記事ばかりなのだ。それでも、インターネットのおかげで、出版社の名前ではないところで仕事ができ、記事の量的制約がなくなったことを、著者は非常に喜んでいる。執筆バカ、取材バカでやってきた人は違うというおはなし。