ビスマルク

飯田洋介『ビスマルク ─ドイツ帝国を築いた政治外交術』、中公新書、2015


ビスマルクの伝記。また、ビスマルクを通じて19世紀半ば以降のプロイセン、ドイツ史を俯瞰する本になっている。ビスマルクは、1815年生まれ、98年没なので、彼の人生そのものが19世紀の歴史。

外交では3回にわたる戦争での勝利とドイツ帝国の成立、1870年代から90年までのヨーロッパ列強の関係の仕切りはビスマルクの業績。内政では、普通選挙社会保険の導入、ドイツ帝国の基本制度もビスマルクの業績。2015年はビスマルク生誕200年でした。

著者は、プロイセン王権の信奉者がなぜドイツナショナリズムの英雄になれたのか、誕生したばかりのドイツ帝国首相がなぜ20年以上もヨーロッパの秩序を主導できたのかという問いを立てて丁寧に答えている。

ビスマルクは古いユンカー出身で、その価値観を持ち続けていた人だが、機会主義者で状況への順応性は高かった。しかし、ドイツ帝国成立の後、ひたすらヨーロッパ国際関係全体の安定を追求して揺るぎがなかったことはビスマルクがただの機会主義者ではなかったということ。

またビスマルクが偉人になるのは、彼が首相を辞めた後のこと。回想録が出版されていたとは知らなかった。翻訳はあるが、戦前の訳で、全3巻のうち最後の3巻目しかない。日本でのドイツ史の扱いはそんなものなのか。

著者はビスマルク研究一筋の人で、研究史もよく理解している人。好著だ。