鉄道が変えた社寺参詣

平山昇『鉄道が変えた社寺参詣』、交通新聞社、2012


短い本だが、非常におもしろい。博論ではないようだが、著者はこの「社寺参詣と鉄道」というテーマで研究している人。

趣旨は、「初詣は明治の半ばになってから、鉄道の開通によって始まった習慣ですよ」というおはなし。今、首都圏で初詣の三大集客地になっている、明治神宮、川崎大師、成田山新勝寺のうち、川崎大師と成田山新勝寺は、鉄道の開通によって集客が可能になったところ。

初詣の前には、いつ参詣していたのか、なぜ川崎と成田なのか、他の社寺はどうなのか、といった疑問にはちゃんと答えられている。鉄道以前の参詣は歩きなので、近くにない社寺に行くのは一日仕事。それが鉄道ができてから、簡単に行けるようになり、正月三が日が休みになったことで(これも明治以後の習慣)、正月に行くようになった。

それまでは恵方参りとか、初縁日にお参りに行っていたものが、年始の初詣に集約されていったのは、鉄道会社の宣伝のおかげ。成田と川崎に複数の鉄道が通じるようになってからは、鉄道会社は競争で集客していた。このマーケティングの材料に社寺参詣が使われていた。むしろ、京成や京急(の前身会社)は、社寺参詣を目的に作られた鉄道。

これを新聞記事、新聞広告、神社の社務日誌から明らかにしたのがこの本。恵方参りが、商業利用されまくったあげくに、次第に廃れていった過程など、とにかく非常におもしろい。簡単に読めたこともお得感高い。