たのしいプロパガンダ

辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』、イースト新書Q、2015


政治プロパガンダと娯楽の結びつきを検討する本。著者の他の本と同じく、洋の東西を問わず多彩な事例が引用されているので、楽しく読めて勉強になる。

著者が強調することは、「プロパガンダは強面の押し付けでは効果が薄く、消費者に受け入れられるようなものでなければならない」ということ。プロパガンダも広告も同じなのだから、これは当然のこと。しかしこのことが案外忘れられていて、宣伝臭のきついコンテンツだけがプロパガンダと思われていることが多いので、この指摘はそれなりに重要。

帝国日本、ソ連、ナチ・ドイツ、ディズニー、最近のロシアとウクライナ北朝鮮、中国、台湾、オウム、イスラム国、現代日本がネタ。どこもやろうとしていることはあまり変わらないのだが、環境が違うのでコンテンツもそれに合わせて変わっていく。YouTubeでもアニメでも、使えるものは何でも使うのがプロパガンダ

最後の章で現代日本プロパガンダっぽいコンテンツ=右傾エンタメを取り上げているが、これはなかなか面白かった。百田尚樹永遠の0』、荒巻義雄『紺碧の艦隊』、「ガルパン」、「MAMOR」は全部そのくくりだろうという趣旨の話がされている。

しかし、著者の分析で抜けているのは、帝国日本やソ連、ナチ・ドイツ、北朝鮮、中国は全部報道の自由がない国の話だが、報道の自由がある国とそれらをいっしょにできるのかということ。もちろん、日本で自衛隊は映画を広報に使っているのだが、そんなことはアメリカでもイギリスでもやっている。自由がない国では、プロパガンダしか流せないようにできるからそれなりの効果が期待できるが、そういう条件がないところでは逆宣伝もされるので、簡単にはいかないはず。

著者は「右傾エンタメ」に警鐘を鳴らす意図があるのだろうが、今も洪水のように量産されている「平和」コンテンツのほうはどうなのか。こっちも娯楽と政治的意図をくっつけるという仕組みそのものは同じだと思うが。宣伝を論じている本にしては、受け手側の分析が薄いことも気になる。