なぜ絶版本は電子書籍になりにくいのか

加藤一『なぜ絶版本は電子書籍になりにくいのか』、竹の子教養文庫、2013


電子書籍ができれば、絶版本が次々と復刊されて、本好きの楽園が・・・ということは現実には起こっていない。それはなぜかという本。この本自体も電子書籍で、著者が編集と装丁の作業を兼ねている。

絶版本の復刊が簡単にできない理由は、著者が見つからない、死んでいる、著者自身が望まないという事情がある場合は別として、「採算がとれない」から。

この本が書かれた2013年の時点で、電子書籍の市場は紙書籍に対して「圧倒的に小さい」と書かれている。ではどの程度なのかということは書かれていない。しかし、「何桁も少ない」と書かれているので、数%以下の規模であることは想像がつく。実際に、本好きな人が電子書籍を好んでいるかというと、そうでない人はたくさんいる。英語圏では話は違うのかもしれないが、日本ではただでさえ本が売れていないのに、電子化すると売れるようになるかといえば、そんなことはないだろう。

著者の試算では、紙の本が1万部売れるとして、同じ金額を著者が取るためには電子書籍が2857部売れる必要がある。この時点では、それは絶望的。

しかも電子書籍という媒体ができても、いろいろコストがかかる。特に校正。スキャンの精度が上がっても、校正なしということはできないので、これはどうにもならない。電子書籍が売れなければそのコストも出ないということ。

新刊本は、コンピュータで作っているのだから、紙を出せるのであれば、同時にコストほとんどなしで電子版を出せるはずでは?と思うが、それは次の巻のおたのしみということになっている。大手の出している新書がなぜ電子化が遅い(または電子化されない)のか、非常に不満に思っていたが、理由はいろいろとあるということ。