世界の軍事情勢と日本の危機

高坂哲郎『世界の軍事情勢と日本の危機』、日本経済新聞社、2015


タイトルを見て、生ぬるい本か、でなければトンデモ本かと思ったが、読んでみると、ずっとまともな本。著者は、日経新聞編集委員

日本の安全保障の問題は、縦割り、アメリカ頼み、トップが最悪事態を真剣に考えていないことだという。これはよくある指摘。しかし、著者の立場は、実際の最悪事態はどういうものかということを、できるところまで考えるということと、そのための備えとして何が必要かという現実的な代案を出そうというもの。これはまともな考え方。

前提となる情勢の見立ては、国際社会は民主主義諸国、「強権国家」(ロシアと中国など)、過激派組織に三極化し、民主主義諸国はむしろ劣勢に向かいつつあるという。その上で、「複合戦」のゲームチェンジャーとなる要素として、核兵器生物兵器、宇宙兵器、サイバー戦争、気候変動、無人兵器の6つをあげる。

日本の安全保障体制は、「複合戦」には基本的に弱く、穴だらけ。東日本大震災で、欠陥が露呈していても対策は取られていない。それに対して著者があげる対策は、官邸の強化、複合戦のシナリオ作り、演習、現地統一指揮官(警察、消防などを全部仕切る存在)の養成、緊急事態法制、日米同盟が有事に動かない想定での準備、対外情報機関の設置、国論分断状況の改善など。

奇矯なことは書かれておらず、だいたい穏当な指摘。著者は、政府内部や、防衛省その他のいろんな人に話を聞きまわっているので、その部分が貴重なところ。自衛隊の高級幹部が「国民なんかいない。いるのはバラバラな群衆だけ」と言っていたなど、名前は出せないものだがおもしろい。