竜のかわいい7つの子

九井涼子『竜のかわいい7つの子』、エンターブレイン、2012



作家の2012年に出た作品集。奥付をみると同人誌で出ていた作品が多く並んでいるので、同人誌出身の人だとわかる。しかしこれも傑作揃い。

絵柄は今のとはちょっと違うが、だいたい完成されている。そして設定とストーリー!やっぱりここが違うわ。この時点でもうおもしろさ全開。

人間の国を竜が隔てている「竜の小塔」、人魚が当たり前にいる世界の話「人魚禁猟区」、中学受験をする子供の家の水槽に変な神様が住みついている「わたしのかみさま」、子供が狼男として生まれてくる「狼は嘘をつかない」、描かれた絵がたちまち命を持つ絵描き「金なし白祿」、父親の病気を治すために竜の鱗を取りに行く「子がかわいいと竜は鳴く」、金田一耕助もののパロディ「犬谷家の人々」の7編。

一番おもしろいのは、たぶん作家の気持ちが込められているような「金なし白祿」。主人公の飄々としたジジイ、非常によい。後味もさわやか。「犬谷家の人々」は、超能力者一家に金田一耕助が現れるのだが、単純にガハガハ笑える。

うまくておもしろいのみならず、いい具合に気が抜けているのがいい。そしてアイデアとストーリーだわ。