闇の奥

ジョゼフ・コンラッド(黒原敏行訳)『闇の奥』、光文社古典新訳文庫、2009


昔から読もうと思っていて読んでいなかった本。気持ち悪い。わけわからないところ多数。しかし、おもしろい。

ずっと前に、映画「地獄の黙示録」は見ていて、とはいえ、終わりの方はなんだかよくわからなかった。その記憶から逆算して、この本を読んだが、ベトナムコンゴの違いはあっても、魔境、闇の世界のお話だ。

語り手で主人公のマーロウは、普通の人っぽいが、少しずつ闇の世界に入り込んでいき、自分も闇の人になっていく。闇の奥の主人であるクルツは、狂った人間ではあるのだが、そんなに謎の深い人物ではなく、むしろ「オズの魔法使い」みたいな感じだ。クルツ自身は、マーロウも長くコンゴの奥地で暮らせばそうなるだろうというような人。ということは、誰でもクルツになるかもしれないということだ。

謀反人の首が串刺しになって、家の回りを取り巻いていたり、死を待つばかりの奴隷たちが死んだような目をしてのろのろ動いている。死の匂いのするものばかりだ。クルツもあっさり死んでしまうし。

巻末の訳者あとがきで、この本に影響を受けた作品として、映画版である「地獄の黙示録」のほか、『蝿の王』、『羊をめぐる冒険』、『虐殺器官』、「アギーレ/神の怒り」があげられている。『虐殺器官』は読んだことがないが、後は読んだり見たりしているので、非常に納得。闇の世界のイメージはいろんなところで生きている。

わかりやすい小説ではないが、そんなに難解ではないことが訳者あとがきでちゃんと説明されている。武田ちあきの「解説」も、非常に理解の助けになる。コンラッドの他の小説も読まなくては。それに「地獄の黙示録」は、見る気が失せていたが、これを読んで、また見たくなった。やっぱり読んでよかった。